「暗くなるまで待てない!」75年/監督:大森一樹

大森一樹監督といえば、世紀末ゴジラ、な世代なワケですが。
そんなこととは問答無用にイイ映画だ。

まずはあらすじ

神戸の街。自閉的な青年梅田は、ある日喫茶店でちょっと面白い女の子と知り合いになった。彼女は撫子ちゃんといって、前衛美術の創作をやっている少女である。
梅田の大学には佐倉という映画キチガイの先輩がいた。彼にとって鈴木清順は神様なのであった。飲み屋で知り合ったチンピラやくざ風の男風間が競輪で大穴を当ててしまい。この金で佐倉は念願の映画を撮ることになった。
吸血鬼映画で、主演は友人の萩本と撫子ちゃん、殺し屋役で風間が助演する。撮影が終わり、映画ができあがりそうになった時、撫子ちゃんは某映画監督にスカウトされて「マリリン・モンロー・ノーリターン」という商業映画に出演することになってしまう。主演女優の出席しないカントク佐倉の処女作の試写会は、彼の行きつけの飲み屋でささやかに行なわれたのであった。

まずもうね、演技がひどすぎ(笑)

まともに演技できてるのは一人もおらん。ヒロインですらも! 特にちんぴらの風間がヒドい!
まぁ、最初はそれでヒクんですが、これが見てるとどんどん味が出てくる。何というか、役であるモラトリアム大学生と映画好きのちんぴらという、地に足の着かない身分、それでいて自意識過剰で距離感のとれない心のありよう、そういったものがこのたどたどしいせりふ回しによって表現されているのだ、といっては言い過ぎかな(笑) 関西弁、というのもデカい気がする(東京弁でこんなんやられたら耐えられへんて!)。


あと、何でしょうかこの懐かしさは。
後述する「シャッフル」まで6年しか開いていないにもかかわらず、圧倒的に懐かしい。というか完全に(ハリウッドと同じ、あるいはヌーヴェルヴァーグと同じ)「ものがたり」になっている。いや、生気が無いとかじゃなくね。
たぶん、この懐かしさは、撮っている時点で意図していたものなんじゃないだろうか。少なくとも無意識には。長嶋引退試合のテレビ中継を30秒くらい撮ってみたり、学祭で講演したあとの鈴木清順を隠し撮りした映像を挟んでみたり、極めつけは荒井由実の「やさしさに包まれたなら」! この15年後に宮崎も同じ目的で同じ曲を使うんだけど、大森一樹のすごいところは全くコンテンポラリーソングだったこの曲、ひいては荒井由美の本質、「郷愁を誘う」機能を見抜いているところだ。


(ちなみに、中盤この「やさしさに包まれたなら」が流れるシークエンスがあるんだけど、もう反則気味に美しい。閉館した大映の前を佐倉がとぼとぼ歩くシーンもおれ反則認定)

青春とはつねに「何かになれなかったもの」のことだ

そう、大森がこれを撮ったのが大学3年の時、という話を聞けば、この懐かしさは納得できる。映画を撮るという夢、仲間との駄弁りぐあい、ヒロインである役者本人への恋、そういったものが今にも過ぎ去ろうとしている、愛するそれらを振り払わないとここから先へ進めない、でも。そういう憂鬱な状況を、もっと大きい喜び(映画撮影)で笑いぶっ飛ばせ! そういう関西人特有のハッタリというかカラ元気の空回りが美しい映画。


そう、カラ元気。不器用さ。主人公は何度も何度も言う「運動家にも不良にもなれんかった僕らは、映画を撮るしかないんや」。長嶋が引退し、学生運動も完全に終結した75年とは、まさにそういう時代であった。あらかじめさだめられたノーゲーム。ならばせめてスタンドプレーをしようじゃないか!(それは今のおれに切実な親近感を抱かせる)。

リンク

レビューは……ネット上ではほとんど見つかりませんでした。
http://www.geocities.jp/crygc/cinema2000.html
↑ココくらい。うあー。おれもこれくらい短くまとめられたらなー。

余談

おれがこの映画でもっとも気になったのが学生監督の佐倉役をやった栃岡章さんなんやけど、gooやらなんやらDBを見ても、どうもこの1本しか出てないらしい。「ほんまかいな!しょっく!」と思わずググってみた。どうやら大阪で高校の先生をしながらMMSS JAZZ ORCHESTRA(または「まいど おおきに JAZZ ORCHESTRA」)というところでサックスを吹いているらしい(たぶんこの人)。大阪もたいがい人多いけど,そうそう何人も「栃岡章」さん(もしくはTOTTY A)はおらんやろ。
って、あーいかん。またネットストーカー行為を(笑)
でも、こんなおもろい映画でおもろい演技しとった人にやったら、是非教わってみたいもんやけどなぁ。

余談その2

この映画に限ったことじゃないんだけど、押井守「アヴァロン」の大仕掛けの元ネタって、80年代自主映画からきてるんだ、と気づいた。両方のネタバレになるのでこれ以上はいわんけど。予算の制約が美を生み出す。っつーよくあるはなし。