「コール」の民族誌 〜あるいは京都の某氏が狂喜乱舞(文字通り)しそうなみうらじゅんのDVD芸について〜

『全日本コール選手権 with みうらじゅん
なる民族誌的に非常に重要なDVDが昨年末頒布されたことは、全国千二百万の泡沫文化研究者諸氏の周知とするところである。
http://www.universal-music.co.jp/zennihon/
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B000BR2PJQ/

ウソ。今日まで知らんかった。畏友に感謝。


えーと、「コール」とはなんぞや、から話を初めます。
「コール」とは「イッキ!イッキ!」のことです。

kwsk。

ある集団内において、アルコールの一時大量摂取に伴う身体的苦痛、精神的躊躇、および社会的倫理の一切を無効化し、飲み会という場に一時的アジール[不可触聖域]を立ち上げることを目的として、アルコール摂取者以外(同集団内メンバーの複数によることが多い)によって発声される呪文のことを指す。リズミカル(=身体的効果)かつ勇ましく(=精神的・社会的効果)摂取者を煽るものが多く、機能・目的だけでなく、その旋律・律動自体がサッカー等の応援歌、労働歌、軍歌、ひいてはウォードラムと類似しており、また、これらからの転用も多い。

冗談はさておき。大学時代、痛飲サークルに所属していた自分は一時期、古典コールの発掘と、新作コールの開発に血道を上げたものです。というか、地方大学の非モテ飲み参加者は、人生を語るには若/老いすぎ、非モテ論をぶちまけるほど追い詰められてはおらず、オタク論議に花を咲かせられるほど体験を共有しておらず、もちろん愛の語らいをするにはスキルと度胸が足りないため、それくらいしかすべきことがありません。

「コール」の名を、その勇ましき旋律を思い出せば、自然と血中アルコール許容量は激増し、喉奥の酸っぱさとともに青春の香りがよみがえってくるものです。


…とか書こうとして、さっぱり思い出せないことに愕然。

アレですかね。身体知なので系譜的な記憶としては呼び出し不可能なんでしょうかね。自転車をこぐように・平泳ぎを泳ぐように、その場になれば即座に思い出せるんでしょうが。身体知の例に漏れず。コールが許容される「その場」自体、もう遠ざかって幾星霜、という感じです。さらに、今後また遭遇する可能性もほとんど無いときた。



…と、いう状況が予想され得たので、大学時代から常々「コール」の収集と記録が民族誌的に重要だなぁ、と(民俗/民族系の学生の誰もが思いつくように)思っていたのですが、やー。さすが「ゆるキャラ」「テーマパーク」「仏像」のみうらじゅん閣下です。ていうか、たぶんみうらじゅんは後世、偉大な民族誌家として参照されることになると思う。フレーザーのように。予言。言い過ぎ。


公式とAMAZONからだいたいの内容(無内容)は予想できるわけですが、野暮を承知で書き起こすと、都内大学の飲みサークルを中心とした8組*1が、自サークルの誇るコールを披露し、それを実況:矢野武アナ、解説:みうらじゅんのゴールデンコンビが論評芸でイジる、というもの(一応トーナメント形式になってるらしいが、しょーじきどーでもいい)。


ちょう見たいです。

誰かおれにPS2を買ってください。

DVDは自分で買う殊勝な心がけ。







補記

ささやかながら、筆者の出身である某地方大学サークルのコールをいくつか記録しておく。基本は1ループを収録した。[古]とあるものは古典(筆者の代より以前から存在)、[新]とあるのは新作(筆者の代に作成)。○○は特に注のない限りアルコール摂取者の呼び名、()内は動作などト書き、【】内は注解である。

[古]のーんでのーんでのんで のーんでのーんでのんで のーんでのーんでのんで  飲んで(語尾を上げ、両指で飲者を指す。こまわりくんの「死刑!」ポーズをアレンジ)。 すーってすーって吸って すーってすーって吸って すーってすーって吸って  吸って(上記と同様)

【基本。困ったらとりあえず】

[古]○○の飲ーみが見たーい 見たーい 見たーい。○○の飲ーみが見たーい らららーらーららーらー ハイ! ハイ! ハイハイハイハイ!

【サッカー応援歌としてメジャーな「○○のゴールが見たい」の転用】

[古]どぶねーずみ みたいに うーつーくーしーく 飲みーたいー。 写ー真ーには 写らない うーつーくしさーが あーるーかーらー。ビンだビンだー ビンだビンだビンだーあー(「ビンだビンだ」以降ループ)

ブルーハーツの替え歌。ビンイッキ専用】

[古]回せ!回せ!(口に逆さまに付けたビンを回す)

【上記から移行する。「ビンだ」が長引いたら】

[古]飛べ!飛べ!(ビンを口に付けながらジャンプする)

【「回せ」からさらに移行】

[古]○○がー 強い強いと聞いてはいたが こんなに強いとはー アイ ドン ノウ サンキューベイベ!(「アイ」以降はテンポを上げて)

【前口上、ブリッジとして。適当なコールへシフトする。「強い」は「エロい」「サムい」などに代替可】

[古]○○が飲むーぞ ○○が飲むーぞ ○○が飲むーぞー 3秒で飲ーむーぞ! 3・2・1!(指でカウントダウン)

【野球応援歌の流用。「パーパラパパーパ」のファンファーレのメロディで。無理目のジョッキ・ビンなどでかけて、以下のコールに移行するのがトレンド(笑)】

[古]そーれーはいわゆるそ・そ・う そーれーはいわゆるそ・そ・う。 エス! オー! エス! オー! エスオーエスオーそそう! そそう! そそう!(以下「そそう」ループ。「エス」「オー」は腕を使ってSとOのジェスチャーを付ける)

【飲みきれない、こぼした、等いわゆる「粗相(そそう)」をしたときの罰ゲーム的コール。意図的に陥れるケースも多い】

[古]聖子! 聖子! 橋本聖子!(両手にグラスを持ち、服の襟をかぶり「ジャミラ状態」になる。グラスを交互に飲む)

【両手のグラスを交互に口に運ぶ様がスケートをしているように見えるため。「ジャミラ」はスピードスケートのボディースーツを模している】

[新]宏保! 宏保! しみーずひろやす!(上記同様)

【上記のアップトゥデートver.。スピードスケート選手で語呂が良ければ誰でも可。岡崎朋美など】

[新?](「『暴れん坊将軍のテーマ』を口まね。「パーパパー」「オイ!」「パパーパパー」「オイ!」「パーパーパーパパー」「オイオイオイ!」と合いの手を入れる)

【[新]としたが、同曲自体は昔から野球応援などでメジャーなため、[古]の可能性も?】

[新]ゴゴッゴッゴー バイッキング〜 バイッキング〜(冠次郎『バイキング』サビ部分をループ)

【S氏発案による完全新作】

[新](『北の国から』のテーマを合唱)

【「ルールー」ってヤツ。○○がサムいことを言ったと判断されたときにコールされる。飲んだ後に「飲みにくいわ!」と○○が逆切れするところまで含めて1セット】

[新]○○ヒクソン大ー好きー(ループ。ヒクソン・グレイシーのマネ[横隔膜を上下させる、肩の柔軟をするなど]をしてから飲む)

【ワケが分からない。が、3〜4年次に大流行。隣で飲んでいた体育会系からパクった】

[新]○○ ■■大ー好きー(ループ)

【上記のアレンジ。■■には通常、○○の恋人、意中の人が入るが、そのとき飲む酒類・銘柄、○○の趣味嗜好を揶揄した言葉も入る。「○○ 日本酒大ー好きー」「○○ ザ・ベスト大ー好きー」など】


補記の補記

まだまだあるけど、とりあえず。「抜けてるよ」「こんなんもあるよ」報告はご自由に。
ていうか、書いたは良いが、映像でないとわけわからん。みうらじゅんは偉大だ(ループ)。採取の際には、注意深い譜面化が必要ですね。舞踊譜のようなものが作れればベター。
前口上か、飲んでる最中のコールか、の分類も必要だなあ。
古典/新作の境界は非常に曖昧。ってーか大学生文化の常として、3年でほぼ完全に成員が入れ替わってしまううえ、当然の如く非成文文化のため、個人の才能なのか伝統なのかを見極めることは、個人レベルでは判断不能。サンプル数を増やす、系譜的な聴取を行う、長期参与観察などの調査手法の検討が必要。
あと、個別ケース的には、体育系学部が同キャンパスに存在するという大学の特性上、応援歌の転用が多めと思われる。


しかし忘れてんなぁ。複雑なヤツほど忘れてる。見返してみると、「芸」としてよりは「ツール」としての性格が強いもの(短フレーズで瞬発力が高く、応用が利く)ばかり好んで残しているようだ。当時の飲みがいかに苛烈だったかを物語る証左。某大の文化程度が低いとか、そういうことでは決してない。ということにしたいのですね。

*1:この1点のみがひたすら惜しい。コールには地謡を取り入れたものもあり、それでなくとも各大学ごとに完結して(「インカレ」なんてウソです!東京の人にはそれがわからんのです!)いる場合が多い。また「コール」は大学だけの専売特許ではなく、職場で受け継がれるものもあることも忘れてはならない。東京の大学に限定したこの選は、セルDVDの作成基準としては正しい(交通費なんか無い)のだが、民族誌として見る場合には惜しすぎる手落ちだ。上記の点を考慮した次回作が待たれる。